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東京地方裁判所 平成6年(ワ)19194号 判決 1995年9月06日

原告

政木省三

被告

道白誠

主文

一  被告は原告に対し、金九七万八九七二円及びこれに対する平成六年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担する。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は原告に対し、金一七六万〇一五〇円及びこれに対する平成六年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事案の経過

本件は、本件交通事故によつて、自己の車両に損害を受けたと主張する原告に対し、被告から債務不存在確認請求訴訟が提起され(平成六年(ワ)第一六一〇九号事件、平成六年一〇月二一日、訴え取下げ)、原告が、反訴として本件訴訟を提訴したものである。

二  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成六年五月二三日午後七時四五分ころ

(二) 事故現場 千葉県船橋市本郷町五〇〇番地先交差点

(三) 原告車 普通乗用自動車

所有者 原告

運転者 原告

(四) 被告車 普通乗用自動車

所有者 被告

運転者 被告

(五) 塚本車 普通乗用自動車

運転者 訴外塚本博計(以下「訴外塚本」という。)

(六) 月舘車 普通乗用自動車

運転者 訴外月舘健(以下「訴外月舘」という。)

(七) 事故態様 原告が、原告車を運転して片側二車線の道路の歩道側道路(以下「第一車線」という。)を塚本車に後続して直進中、対向進行してきた被告車が右折をして、被告車と塚本車が衝突し、塚本車が第一車線を塞いだため、原告は、塚本車との衝突を避けるため右にハンドルを切つたが、原告車を対向車線に進出させ、右折のため対向車線に停止中の月舘車と衝突した(なお、以下では、被告車と塚本車の衝突を第一衝突、原告車と月舘車のを第二衝突と呼ぶ場合もある。)。

三  争点

1  責任原因

原告は、「被告は、右折する際に、塚本車の動静を注視しなかつた過失によつて被告車が塚本車と衝突した結果、原告車が塚本車と衝突し、原告が損害を負つたのであるから、被告は、民法七〇九条により、原告に対し、損害を賠償する責任を負う。」と主張するのに対し、被告は、「原告車と月舘車が衝突し、原告車が破損したのは、専ら、塚本車との車間距離を十分に取つていなかつた原告の注意義務違反に基づくものであり、右折しようとした被告が、対向進行してくる塚本車の動静を注視する義務を負つていることは格別、塚本車の後方から進行してきた原告との車間距離にまで注意する義務を負つておらず、原告(ママ)に過失はないし、また、被告車と塚本車の衝突との間には因果関係もない。」と主張して、原告に対し、損害賠償責任は負わないと主張している。

2  過失割合

原告は、原告の過失割合は最大で一割であると主張するが、被告はこれを争つている。

第三  争点に対する判断

一  甲一、二の一ないし四、三の一ないし三、四の一ないし三、乙二、原告、被告本人尋問の各結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故の発生した道路は、千葉県市川市二俣二丁目方面(以下「二俣方面」という。)と同県船橋市西船五丁目方面(以下「西船方面」という。)を結ぶ、片側二車線の道路である(以下「本件道路」という。)。本件事故の発生した交差点は、本件道路と同県船橋市葛飾二丁目町方面(以下「葛飾町方面」という。)と同市二子町方面(以下「二子町方面」という。)を結ぶ直線道路が交差する、信号機により交通整理の行われている十字路交差点である(以下「本件交差点」という。)。本件道路は、平坦な道路で、本件交差点付近は直線であり、見通しは、原告車、被告車のいずれの方向からも良好である。本件道路は、アスフアルトで舗装され、本件事故時は晴れで、路面は乾燥していた。本件道路は、市街地にある幹線道路であり、本件事故時も交通は頻繁で、最高速度は、時速四〇キロメートルに制限されている。

2  被告は、本件道路を二俣方面から西船方面に向かつて直進して本件交差点に至り、青色信号にしたがつて、本件交差点を葛飾町方面に右折しようとして、本件交差点手前の停止線付近で対向車線上を確認したところ、本件交差点内の対向車線の中央線側車線(以下「第二車線」という。)の延長上に、二子町方面に右折するため停止中のトラツクを確認した。しかしながら被告は、急いでいたため、第一車線上の車両等、他の対向車両を十分に確認しないまま、時速約二、三〇キロメートルの速度で進行し、いわゆる早回りで右折を開始した。被告は、そのまま約一二・六メートル進行した地点で、約一九・二メートル先の第一車線上に対向進行してくる塚本車を初めて発見したが、多少の危険は感じたが先に右折を完了できると判断しそのまま進行したところ、塚本車がそのまま進行してきたため、急ブレーキをかける間もなく、約五・五メートル進行した第一車線上で被告車左前部を塚本車右前部に衝突させた。

被告車は、塚本車と衝突後、右に反転し、本件交差点の二俣方面側出口先の第一車線上に、横転して停止した。

3  訴外塚本は、本件道路を西船方面から二俣方面に向かつて、第一車線を走行していたが、本件交差点手前で第二車線に進入し、第一車線上のトラツクを追い越したところ、本件交差点を右折しようとしているトラツクを発見したため、本件交差点手前約一三・五メートルの地点で、再度、車線を変更し、本件交差点直前で第一車線に進入を完了して、そのまま直進して、青色信号にしたがつて本件交差点内に進入したところ、対向右折してきた被告車の左前部が、塚本車の右前部に衝突した。

塚本車は、衝突後、左に回転しながら約四・二メートル進行し、本件交差点の二俣方面側出口付近の第一車線上に、塚本車後部を第二車線の一部を塞ぐ形で停止した。

4  原告は、時速約五、六〇キロメートルの速度で、本件道路を西船方面から二俣方面に向かつて、塚本車に続いて進行していた。原告も塚本車と同様に、当初は第一車線を走行していたが、本件交差点を右折しようとしている車両を発見したため、第二車線に進入し、さらに本件交差点手前で再度第一車線に進入し、そのまま直進して、同一速度の時速約五、六〇キロメートルの速度で、青色信号にしたがつて本件交差点内に進入した。塚本車との車間距離は、当初は、約四、五メートル程度であつたが、塚本車が本件交差点に進入する際に加速したため、少し開いた。原告車が本件交差点内に進入した直後、原告車の前方約一四・九メートルの地点で第一衝突が発生し、前記のとおり、塚本車が、第一車線と第二車線の一部を塞いだ形で停止した。なお、原告は、原告本人尋問において、被告車と塚本車が衝突した際の、原告車と塚本車の距離は約七、八メートルであると証言しているが、その趣旨は、被告車と塚本車が衝突した際の原告車の位置は、実況見分の際と原告本人尋問の際では相違はないとした上で、実況見分の際に、警察官に対し、被告車と塚本車が衝突した際の塚本車の位置を指示し、自らはその距離を七、八メートルと感じていると証言しているに過ぎず、その証言からも、警察官が原告の指示を受けて、距離を実測し、甲二の四の実況見分調書が作成されていることは明らかであるので、被告車と塚本車が衝突した際の原告車と塚本車の距離は、甲二の四の実況見分調書記載の約一四・九メートルと認められる。

原告は、第一衝突が発生したため、塚本車や被告車との衝突を回避するには、右に回避するしかないと判断し、ブレーキをかけながら右にハンドルを切つた結果、被告車及び塚本車との衝突は回避できたものの、そのまま約二九メートル進行し、対向車線の中央線側車線上の本件交差点二俣側出口側停止線付近で、葛飾町方面に右折しようと停止していた月舘車に衝突した。

二  被告の責任の存否

以上の事実によれば、本件道路は、交通頻繁な幹線道路であり、本件事故の際、第二車線上には大型トラツクが右折のため停止しており、第一車線だけが交差点内を直進し得る状態であつたことなど、本件事故の際の本件道路の交通事情に鑑みると、右折の結果、事故を発生させた際には、単に直接衝突をした車両のみならず、後続車両等他の車両との間にも、二重衝突や、事故車両との衝突を避けようとしてさらに他車との衝突を生じるなど、重大な影響がでることが十分に予測できる状態にあつたと言える。したがつて、右折をしようとする車両は、単に直前の対向車両の安全を確認すれば足りるのではなく、後続車等、広く対向進行してくる他の車両の安全をも確認して右折をすべき注意義務を負つていると認められる。

のみならず、第二衝突は、被告の動静注視義務違反による右折のため生じた第一衝突の結果、第一車線上に停止した塚本車との衝突を回避しようとして生じたものであり、前記のとおり、本件道路の交通事情に鑑みると、右折の結果、事故を発生させた際には、単に直接衝突をした車両のみならず、他の車両との間にも重大な影響がでることが十分に予測できる状態にあつたと言えるのであるから、被告の塚本車に対する動静注視義務違反と第二衝突との間にも、相当因果関係が認められる。

以上の次第で、被告は原告に対し、民法七〇九条に基づき、その生じた損害を賠償する責任がある。

三  過失割合

前記のとおり、本件では、被告の動静注視義務違反による第一衝突がなければ、およそ第二衝突は発生しなかつたものである。第二衝突は、被告の動静注視義務違反による右折のため生じた第一衝突の結果、発生したものであり、本件事故は、基本的には、青色信号に従つて右折した被告車の過失によつて、青色信号に従つて直進してきた原告車の安全が阻害された事故の範疇に入るものである。このため、第一次的には、右折車である被告が事故の回避義務を負つているものであり、被告の過失は重大と言える。一方、前記認定のとおりの本件事故の状況の外、制動距離等に鑑みれば、本件時に、原告が十分な車間距離を取つて塚本車の後方を走行していたか、若しくは、原告が制限速度を遵守して走行してさえいれば、原告は、月舘車との衝突を回避し得たか、仮に衝突しても、被害はより軽微になつていたものと認められる。原告の車間距離不保持と制限速度違反という落ち度が、第二衝突の重大な原因の一つになつていることは明らかである。それ故、本件における原告の落ち度も重大であるが、前記のとおり、第一次的には、右折車である被告が事故の回避義務を負つていると言えるので、この点に鑑みれば、被告の過失と原告の過失を対比すると、本件でも被告の過失の方が重大と言えそうである。

しかしながら、原告が車間距離不保持という過失だけを犯しているのであれば、原告の過失よりも被告の過失の方が重大と言えるであろうが、本件では、原告は、さらに速度制限を約一〇ないし二〇キロメートル超過した速度で進行するという過失も犯している。このことは、単に事故の発生に影響を与えたのみならず、損害の拡大にも多大な影響を与えたことは明白であり、本件で過失割合を決定するに際し、原告の責任を重くする落ち度として、加算して考慮する必要が認められる。

したがつて、本件においては、原告と被告の責任は、いずれか一方が明確に重いと断定できるものではなく、本件における過失割合は、原告五割、被告五割と認めるのが相当である。

第四  損害額の算定

一  修理費 一七七万七九四五円

乙一により認める。

二  過失相殺

前記第三の三で認定したとおり、本件における過失相殺は五割と認めるのが相当であるので、損害額は八八万八九七二円となる。

三  弁護士費用 九万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、弁護士費用は、九万円が相当と認められる。

四  合計 九七万八九七二円

第五  以上の次第で、原告の請求は金九七万八九七二円及びこれに対する本件事故日である平成六年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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